アーティストの訃報と受け継がれていくものの尊さと

ab bank fes 2023の感想

30代半ばにもなると、長年聴き続けているアーティストや、かつて熱心に聴いていたアーティストの訃報に触れることが増えてきます。
2023年3月に坂本龍一さんが亡くなったことは個人的にとてもショックな出来事でした。
著名人の訃報は、あらゆる輝きが永遠ではないことを私たちに知らしめます。


話は変わりますが、今年の夏に子どもを連れて「ap bank fes’23〜社会と暮らしと音楽と」というライブイベントに行ってきました。
いわゆる夏フェスですが、イベントの利益は被災地への寄付や、社会貢献活動を行う団体に低利で融資を行う活動などに充てられます。
フェスを主催するap bankの「ap」とは「Artists’ Power」「Alternative Power」の頭文字を取ったものなのですが、この活動のきっかけを作ったのは坂本龍一さんでした。
坂本さんの理念に共鳴したMr.Childrenの桜井和寿さんと、Mr.Childrenなどのプロデューサーである小林武史さんが加わり、3氏が拠出した資金をもとに、主に環境保全活動への支援を行うために設立されたのがap bankです。


そのような成り立ちですので、フェス自体も単なる音楽フェスではないのですが、今回は単純に音楽を楽しみに行って感じたことを記事にしてみたいと思います。

ap bank fesで「HERO」という曲が紡ぐもの

2005年のap bank fes初開催の時、とある事件が起こりました。
桜井さんがBank Bandで「HERO」という曲を歌ってる時に感極まって最後のサビが歌えなくなるという事件です。
「ライブ中に気をつけていることは?」という質問に「プロとして歌を届けるために絶対泣かないようにしている」と答えているのを読んだことがあり、確かに桜井さんがライブ中に泣いているのを見たことはありませんでした。
異例の事態です。

その曲の前にゲストとして出演していたのは、桜井さんがアマチュアの頃からずっと憧れていたという浜田省吾さん。
同じ日にはミスチルへの尊敬と憧れを、いたるところで語っているスキマスイッチも出ていました。
そんな巡り合わせの中にあって
「残酷に過ぎる時間の中で きっと十分に僕も大人になったんだ 悲しくはない 切なさもない ただこうして繰り返されてきたことが そうこうして繰り返していくことが 嬉しい 愛しい」という歌詞が涙を誘ったのだそうです。
(ちなみに翌年のミスチル1曲目がHEROだったのには、なんか桜井さんの意地を感じてしまいました)

時は変わって、2023年7月16日。
3日間のうち2日目のその日は、Mr.Childrenの後にback number。
最後に桜井さんと小林さんの短いセッションはありますが、大御所ミスチルの後に若手のback numberが実質のトリを務めるという異例の出順でした。


ミスチルがヒット曲を避けた超渋いセットリスト(イベントのテーマ性や世相が色濃く反映されていて個人的には最高でした)をかました後にback numberが登場。
私は正直まともに聴いたことがなく「この人たちミスチルから影響受けていそうだな」くらいの認識しかなかったのですが、なんか妙な緊張感と気合を感じるステージに段々引きこまれてしまいました。
MCではボーカルの清水 依与吏さんが「本当にこれで良いのか何度も確認した」と出順にも触れて、「俺の世界で最も偉大なバンドとプロデューサー」という言葉でミスチルとプロデューサーの小林武史さんへのリスペクトにも言及します。
「バトンを繋いでいく」ということをテーマに、感極まりながら一つ一つ言葉を紡いでいく姿にも心を打たれました。
ミスチルの抑制的なセットリストからの流れをしっかりと受け止め、盛り上げきった感のある演奏は素晴らしく、一度ちゃんと音源を聴いてみようと思うには十分なステージでした。

そして、日も暮れはじめた頃に始まった最後のセクションは、桜井さんと小林さんの歌と鍵盤のみのシンプルなセット。

HEROから始まりました。

やられました。

おまけにこっちは初めて子ども連れて参加してるんですよ。

響きすぎる。


「残酷に過ぎる時間の中で きっと十分に僕も大人になったんだ 悲しくはない 切なさもない ただこうして繰り返されてきたことが そうこうして繰り返していくことが 嬉しい 愛しい」

演者の人達側に流れる時間の流れ、こちら側に流れる時間の流れ。


今あるものがずっと続くわけでもないこと。


その中で何かを繋いでいくことの尊さ。


そのことを思わずにはいられない1日でした。

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